平成27年11月1日、浜松まちなか活性の新たな拠点を目指して、浜松駅に程近いモール街に誕生した「Any(エニィ)」。
“新しいコト・ヒト・価値が交じり合い「コト」が起こる場所”と銘打たれた「Any」は、ワークショップやカフェ、コワーキングスペースを備え、誰もが好きな時に好きなことができる自由な施設として、内外の大きな注目を集めている。その立役者の一員として活躍しているのが、浜松まちなかマネジメント株式会社の高橋と伊藤だ。遠州鉄道という企業から一歩離れ、さらに大きな視点から見つめる「地元浜松」は、彼らの目にはどう映っているのだろうか。

Leader's Interview

プロジェクトメンバーが、現在の進捗や将来の目標、
プロジェクトにかける想いを語ります。

浜松まちなかマネジメント株式会社(出向)
高橋 慎太郎
自分たちがここで新たに事業を行うなら、
いったい「何」をしたいか(髙橋)

─── プロジェクトの背景を伺う前に、お二人が所属する「浜松まちなかマネジメント株式会社」について教えていただけますか。

高橋:「もう5年以上前の話になりますが、浜松中心市街地を民間の力で盛り上げようという気運が高まり、自主的な組織が生まれました。浜松の中心市街地における主要企業や団体をはじめ、浜松市や商工会議所、浜松商店界連盟などが参加して発足した、『浜松まちなかにぎわい協議会』です」

伊藤:「この『浜松まちなかにぎわい協議会』のまちづくり活動を継続的に支える財源を確保するとともに、自らも積極的に中心市街地の活性化を推進することを目的として『浜松まちなかマネジメント株式会社』が設立されました。この二つの組織に対して、高橋や私のような出向者だけでなく、さまざまな形で遠鉄グループが参画・協力をしています」

高橋:「ですから、この両者は表裏一体のものだと考えてもらって構いません」

─── それでは、Anyプロジェクト発足時の様子を聞かせてください。

伊藤:「もとをたどると、現在『Any』が入居しているこの『遠鉄モール街ビル(もともとはパチンコ店があったビル)』を遠州鉄道が取得したことが発端です。屋内駐車場に併設されたスペースがあるので、まちに開かれたコミュニティースペースとしての機能を持った場が浜松のまちなかには必要だという話になりました。最初は新しい事務所をどうするかくらいの話に捉えていたのですが、実際に見るとあまりに広すぎてとてもそれだけでは収まらない話でした(苦笑)」

高橋:「そこでまず『自分たちがここで新たに事業を行うとしたら、何をしたいか』をテーマに、事務局内で企画コンペが行われました。この時点ではまだコンセプトも定まってなかったので、自由な発想が集まりました。僕も、音楽の街にちなんだ誰もが演奏できる奏者優先のスペースを作るというような案から、ゲームバーやゴルフバーを運営しようなど、かなり楽しんで案を練っていました」

伊藤:「その中から実現可能性が高いとして選ばれたのが、『ワークショップ』と『シェアオフィス』の案だったんです。ただし、もしこの事業がレンタルオフィスや貸しイベントスペースのようなリーシングに終始するのであれば、何も『浜松まちなかマネジメント株式会社』がやらなくてもいいことになってしまう。僕たちの目的は目先の儲けを出すことでなく、あくまでも浜松中心部と地域の活性化なのですから」

高橋:「スペースがあるから活用しようという視点から、もう一歩発想を進める必要がありました。そこで人を集めて終わりではなく、さらに次につなげる何かをしようというように、だんだん方向性が定まっていったのです」

─── 人を集めるだけでは不十分?

高橋:「多くの方に来ていただくことは大切ですが、それだけが目的では未来につながっていきません。持続的・継続的に人が集まる状態にするためには、ここを訪れることで人のつながりやひろがり、成長が実際に得られる場所でなければならないんです」

伊藤:「それがAnyのコンセプト、“新しいコト・ヒト・価値が交じり合い『コト』が生まれる場所”の原型になっていきました」

僕らはビジョンの欠落やブレとは無縁だった。
それは「街中活性化」という目標があったから。(伊藤)

─── 具体的な施設づくりはどのように進めていったのですか?

高橋:「コンセプトが定まってくると、それであれば、『この建物はこう使ってほしい』と決めつけないほうが新しい出会いが生まれる場所としてはふさわしいんじゃないか、そう考えるようになってきました。一方で事業内容が明確に伝わらなければ、集客以前の問題であることも明白です。『浜松まちなかマネジメント株式会社』のプロパー社員と葛藤を繰り返す中で『コワーキングスペースとワークショップを中心とした複合施設』というアウトラインが見えてきました」

─── 現在のAnyの姿ですね。

高橋:「次に着手したのがベンチマークの調査です。対象は全国のシェアオフィスと、コワーキングスペース。ただし、調査が進むに従い、これらの施設は数こそあるものの、きちんとマネタイズされているところは意外に少ないことがわかってきました。浜松とは周辺環境が異なる東京23区内などのケースは参考にしづらい」

伊藤:「僕は通常業務があったのでリサーチは高橋君たちに任せていたけど、結局100件くらい調査したんだっけ?」

高橋:「そうですね、100件以上はリサーチしたと思います。リサーチだけでも通算で丸1カ月くらいの時間を投入したんじゃないでしょうか。ただ、その中で実際に参考にさせていただいているのはその半分くらい。結局、僕たちは僕たちのやり方を見つけなければいけなかったんです」

─── 得たものも大きかったのでは?

高橋:「当時、日本全国で類似の施設は350件くらいあると言われていました。でもその中には既に廃業していたものもあったし、部屋や空間が余っているからとりあえず何かに使えたら、というような利活用目的で看板を掲げているようなところも少なくなかった。そして、総じてそういうところはうまくいっていませんでした」

伊藤:「ビジョンがないからだよね」

高橋:「そこで気付いたのは、スペースの使い方だけでなく、運営者がその先の展望を見通すことができていなければいけないということです。例えば『女性が活躍できる舞台』というビジョンを明確に打ち出した上で、女性目線の設備やサービスを充実させているところは、うまくいっている。利用する人たちとのつながり方をしっかり思い描き、より関係性を深めていく仕組みや環境をつくっていくことが大切なんです」

伊藤:「もともと僕たちには「街中活性化」という目標があるので、ビジョンの欠落やブレといったものとは無縁でした。それがAnyプロジェクトの一番の強みだったといえるかもしれない。皆の気持ちがひとつだったからこそ、事業のコンセプトも早期に固めることができたし、通常業務と二足のわらじで苦労した時期もみんなモチベーションを保ったまま走り続けられたのでしょうね」

想定を上回る、お客様層の広さ。
それは新しい可能性の兆し。(髙橋)

─── 現在、オープンしてちょうど1カ月です。ここに至って、特に思い出すことは何でしょうか?

高橋:「Anyプロジェクトは、コトや仕組みを作ること自体が目的ではなく、作ったあと持続・運営させることが最大の目的です。そういう意味ではやっとスタートを切ったところです」

伊藤:「個人的には、よく予定通りにオープンしてくれたという気持ちです(笑)。事業を始めるに当たっては、現実的にさまざまな準備をしなければなりません。冒頭で述べた事業化に必要な手続きから、関係各所との調整、サービス体系や利用規約の整備など……。実はAnyの具体像が固まってきて皆が盛り上がっていたころ、僕はその辺りが置き去りになっていることに気付いてしまって、一人青くなっていたんです」

高橋:「伊藤さんには土壇場まで本当に助けてもらいました」

伊藤:「といっても、利用者向けのガイドの充実や規約の見直しなど、まだまだ必要な作業は山積していますので、気は抜けませんけれどね」

高橋:「僕にとって驚きだったのは、お客様の層が幅広いこと。オープン前の想定内にとどまらない、さまざまな方々がコワーキングスペースやワークショップを利用してくださっています。このことは僕らにとって新しい可能性の兆しですから、今後が楽しみですよね」

伊藤:「今のところ、ワークショップの事業については目標通りの数字で推移しています。ただオープン直後の目新しさもあるでしょうから、この数字をどう維持していくかが今後の課題です。また、女性の比率も事前の予想を上回りましたね」

高橋:「やはり女性は、新しいものへの感度が男性より高いように感じます。ただそれだけに、早期に彼女たちの心をつかむ仕掛けを急いでいます」

─── コワーキングスペースの状況はいかがですか?

高橋:「Anyの特徴をPRする狙いもあって、オープン前はワークショップに力を入れてきたんです。オープンしてからはコワーキングスペースの利用を高めることを意識しています。年明けや年度替わりといった節目には起業を考える人が増えるので、このタイミングを逃さないよう、仕掛けていきます」

Anyという具現化された“モノ”が、
僕たちの言葉に説得力を与えている。(伊藤)
『きっかけのフィルター』として
地元のパワーを橋渡しする存在に。(髙橋)

─── Anyがオープンして、皆さんの意識に変化はありましたか。

伊藤:「僕たちというより、周りの反応が変わってきましたね。僕たち自身は、以前のJRガード下の事務所にいた頃からやっていることの本質は変わっていないのですが、やはり『Any』という具現化された“モノ”ができたことで、僕たちの言葉に説得力が増しているのを実感します」

高橋:「建物の完成前と完成後のようなもので、街中活性化や、ヒト・モノ・価値の融合と化学変化、そして広がり。そういった言葉が、『Any』の存在によってイメージしていただきやすくなったのではないでしょうか」

伊藤:「これまでにも僕たちはソラモの指定管理事業を務めたり、まちなかイベントを仕掛けたりといろいろやってきましたが、自分たちの事業と呼べるものがありませんでした。それだけに−−これはうがった見方かもしれませんが−−事業を行っている方々と比べた場合、当事者意識の温度差のようなものがあったかもしれない」

─── でもAnyのオープンによって、名実ともに『浜松まちなかマネジメント株式会社』は運命を共にする仲間として認められたのではないかと。

伊藤:「そうですね。これからは、どれだけの方にそれを感じていただけるかが僕たちの勝負になります。ウェブサイト運営やFacebookなどSNSを使ったマーケティングなど、利用者層との継続的なコミュニケーションを築いていかなければいけません。それに今の手段だけではリーチできる層が限られていますから、もっと間口を広げた展開を仕掛けていく必要も出てくるでしょう」

高橋:「その一方で、コワーキングスペースやワークショップの潜在利用者層である、市や浜松商工会議所が主催している起業家カフェでのPRや、起業支援をしている方とのパイプづくりといった地固めも並行して行っていきます。地道な手法ですが、確度は高いと考えています」

─── Anyは、これからどんな施設を目指していくのでしょうか。

高橋:「『中心市街地の活性化』や『地方創生』、『地域再生』といった問題が叫ばれるようになってからもうずいぶんたちますが、いまだにTVや新聞、ネットでこれらの言葉を見ない日はありません。それは、これらの問題に対して具体的なアクションを取るのが、実に難しいということを示しています。こうした難題に対しては、地域の総力を挙げて立ち向かっていくしかありません。何かを持っている個人をはじめ、地元の商店街や企業、金融、そして行政や教育機関といったパワーのハブであり、また橋渡しを務める存在であり続けられたらと思います。そういった意味でもAnyは『きっかけのフィルター』としての役割があると思っています。Anyをきっかけとして大きなパワーが生じ、その結果として浜松の街中というエリアの価値が高まり、より人が集まってさらに高い価値を生んでいく。そうして遠州地域全体に波及する流れを創る、触媒のような存在になるよう努めていきます」

高橋慎太郎
浜松まちなかマネジメント株式会社(出向)
入社年/2002年

入社後、不動産事業本部、総務部を経て、新規事業の遠鉄食品検査センターの営業に従事。さまざまな業務を経験し、多くのお客様と接してきた。その後、浜松まちなかマネジメント株式会社へ出向し、まちづくり事業に従事する中でAnyプロジェクトを担当することになる。

伊藤典明
浜松まちなかマネジメント株式会社(出向)
入社年/2005年

以前は広告部門に所属し、遠鉄グループ内外の企業をクライアントとしてさまざまなプロモーション活動を支援してきた。「浜松まちなかマネジメント株式会社」では「ソラモ」の管理運営からまちなか回遊促進事業など幅広い業務を担当している。

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